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僕の言葉をさえぎるようにして、男はゲームのパッケージを手に取った。僕は改めてそのイラストに目を向ける。描かれていた霊がさっきよりもリアルに見えてしまうのは、妙な話を聞いたせいであろうか。
「囚われた幽霊は数え切れないほどのゲームソフトに複製されて、ディスクの中に憑りついたまま全国で販売されたんです。そして無数に複製された幽霊が日本中にまき散らされた。……どうです? 恐ろしいことでしょう?」
「そんなこと、あり得ないです」
「おや、信じられませんか? でも、とってもとっても怖かった。そうでしょう? 今までにないほどの心霊体験だったでしょう? それはデータ化された幽霊が、意思を持ったままゲームのなかに閉じ込められていたからなんですよ」
男の手が、見えない何かに触れるように空間をなぞった。
「お客様はゲームを通して、幽霊に直接触れていたのです」
頭の中に直接語り掛けてくるような、暗く沈んだ声だった。
不意にめまいを覚えて、カウンターに手をつく。僕が大きく息を吐きだすと、男はにこりと笑って両手でゲームを掲げて見せた。
「さっき、大事なものが欠けていると言いましたよね」
「はい。それで買い取りは出来ないって……」
「そうなんです。もうこのソフトの中にはいないんですよ。データにされて、閉じ込められていたはずの幽霊が。だからどんなに状態がよくっても値はつけられません」
ぞくりと、氷が触れたように背筋が冷えた。ゲームに入っていた幽霊はもういない?
ならばその幽霊は、いったいどこに……。
「待ってください! もういないって、それじゃあゲームのなかにいた幽霊はどこに行ったっていうんですか?」
僕の問いかけに男は目を細め、僕の斜め後ろをじっと見つめていた。
「その幽霊はどこに行ったか、ですか? ……お客様、このゲームをずいぶん長い時間プレイされていたたみたいですねぇ。わかります。私にはわかるんですよ。だって……」
全身が震えた。男の視線、どこを見ているのか。僕の右肩の斜め後ろ……。
どうしても、その視線の行先を追うことが出来なかった。呼吸が浅くなる。ほほを、一筋の冷たい汗が流れていった。
ゲームをそっとカウンターに置いた男が、小さな声でつぶやいた。
「だって、お客様の後ろに、視えますから――」
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