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ホラーゲーム
「いらっしゃいませ。本日はいかがいたしましたか?」
自動ドアをくぐったカウンターの向こう側で、目の細い男が僕に声をかけてきた。
「あの……ゲームの買い取りをお願いしたくて」
「買い取りですか。ええ、もちろん承っておりますよ。それではさっそくお品物を拝見させて頂けますでしょうか?」
かすかに口角をあげる男。年齢も定かではない謎めいた雰囲気の男に気をとられていた僕は、慌ててゲームソフトを取り出した。
ソフトを見た男が、ほうっと息をはいてパッケージに視線を落とした。
「ははぁ、このソフトは……。お客様、ホラーがお好きなのですね。それも本格的な、とっても怖いホラーゲームが」
「やっぱりわかりますか?」
そう、このゲームは最高に怖いとマニアの間で評判のソフトなのだ。
「わかりますとも。このゲームは知る人ぞ知る『本物』が出てくるゲームでございますから。世間でも評判になりましたよね」
つぅ、と白い指がゲームを入れたケースをなぞった。
「迫力がありましたでしょう? 暗い部屋に、ぼんやりと浮かび上がる女の霊……。他のゲームとは全然違う。比べ物にならない不気味さ、恐ろしさ、背筋が凍りつくような空気……。本当に、傑作ですよね」
ゲームのケースを愛おしそうに撫でまわしながら、男がうすら笑いを浮かべた。僕はそんな男の様子に少々不安な気持ちを抱きながらも、なぜか目をそらすことが出来なかった。
「それで買い取りは……?」
「おっと、おしゃべりが過ぎましたね。それでは品物を拝見させていただきます」
男が白い手袋をつけると、丁寧にケースを開けてディスクの盤面を確認していった。
「とても綺麗だ、状態は良好ですね。説明書も新品みたいにまっすぐで盤面も傷ひとつない。物を大切にされる方ですね」
ニコニコと盤面をチェックしていた男の顔が不意に曇った。何度も角度を変えてディスクをのぞき込むようにして、しきりに首をかしげている。
「ああ、これは……。うーん、困りましたね」
「困った、と言いますと?」
「あのですね、言いにくいのですが……。このソフト、大事なものが欠けているんです」
「大事なもの? でもディスクもケースも状態はいいって……」
「いえいえ、もちろんケースも問題ないですし、説明書も日焼けなどしておりません。見た目は何も問題ないのですが……」
「じゃあどうして……」
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