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「あ、これ、悠人のバイト先の花屋じゃない?」
亜美はベッドに寝転がりながら携帯をいじっている。その傍らには、悠人がいた。
「どれ?見せて」
亜美から携帯を受け取り、動画の再生ボタンを押す。二人の女が、大通りの真ん中で金切り声をあげていた。背景にチラリとLa berceuseの看板が見える。画質は良いが、音割れしていて、ケンカの内容までは聞き取れなかった。
「おばさん同士、元気だねぇー」
亜美は気怠げに言った。深夜のアルバイト以外ではほとんど外出しない、吸血鬼のような生活を送る亜美のことが、悠人は好きだった。
「けっこう拡散されてるな、これ」
「だねー、店の宣伝になるんじゃない?」
そう言って、亜美はクスクスと笑った。その病的に白い肌を撫でているだけで、悠人は幸せだった。
携帯を返し、左手の包帯を解く。まだ完治していない噛み跡が空気に触れてひりっとした。
「今日はどこを噛ませてくれるの?」
亜美の血色の悪い唇から、ちらりと八重歯がのぞいた。
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