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悠人との最初の出会いは、後輩の大学の卒業式に贈る花束を、La berceuseに買いに来た時だった。花のことなど何もわからなかった茉莉は、店員に詳しく話を聞こうと声をかけた。
その店員の顔を見た瞬間、茉莉は、まるで時が止まったかのように固まってしまった。
色白で鼻筋が通っており、耳の下から顎にかけての輪郭が直線的で、首が長い。眠そうな垂れ目が瞬きをするたびに、茉莉の心臓がドクンと脈を打った。
悠人の、「どうかされましたか?」の声に、はっと我に返る。口をパクパク動かすばかりで、言葉が出ない。顔がどんどん火照っていくのがわかった。悠人の表情が、営業スマイルから、徐々に困惑を帯びていく。
「あの…後輩の卒業式に、花束を…」
上ずった声で、なんとか絞り出すと、悠人の顔はパッと明るくなり、薄めの唇から綺麗な歯並びが覗いた。
その後、悠人から色々な花を勧められたが、茉莉の目線は花ではなく、悠人の上下する喉仏に向けられていた。説明がまったく頭に入ってこない。
結局、勧められるがままに、名も知らぬ花を数十本買い、花束を作ってもらった。ラッピングしてもらっている間も、茉莉は悠人から目が離せなかった。
花束を受け取り、店を去る間際、茉莉はようやく店員の名札を見ることができた。
先島悠人。その名前を、帰宅後すぐに検索し、SNSで彼のアカウントを特定。フォローはせず、ブックマークした。
アカウントから、彼が大学生であること、スノボや料理に打ち込んでいることがわかった。恋人の有無まではわからなかったが、一枚だけ、彼の顔が写った画像を発見した。
ゲレンデで撮られた集合写真、その中に悠人はいた。ニット帽とゴーグルがとてもよく似合う。雪焼けでほんのりと赤く染まった頬が愛おしい。
その晩、茉莉は保存した画像と、花屋での悠人のことを思い出しながら、自分を慰めた。
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