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「いただきます」
男が箸でじゃが芋を摘まんだ時だった。
スマホが振動した。男は画面を見て小さく舌打ちした。母親からのメールだった。
『何も連絡寄こさないけれど、元気でやってるの?
仕事は見つかった?いつまでもぷらぷらしてるなら帰って来てお父さんの仕事を手伝いなさい。
どうせろくなもの食べてないんでしょ?お米と野菜送っておいたからね。
それと、あんたもいい歳なんだから早く良い人見つけて結婚しなさい。孫の顔も見ないで死にたくないからね。』
男はメールを閉じ、嘆息を漏らした。
現実に引き戻された男の眼前に妻の姿は無かった。テーブルの上にはチルドの肉じゃがとコンビニのおにぎりが二つ。菓子の詰め合わせ。
男は厳しい現実から逃れ、妄想の世界で、理想の妻と、理想の夫婦生活を送っている。
男は四十五歳。コンビニアルバイト。独身(妄想の世界では既婚)だ。
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