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「ただいま」
帰宅した男の右手を見て、男の妻は「わあ」と、歓喜の声を上げた。
「ああ、これかい?お土産に買ってきたんだ」
男は右手に提げた有名菓子店の袋を差し出した。中には五種類の菓子を詰め合わせた箱が入っていた。それらは全て妻の好物であった。
「ありがとう」妻は男の思惑通り満面の笑みを浮かべて喜び、遅れて「お帰りなさい。疲れたでしょ?」と、夫の労を労った。
男は妻を心から愛していた。妻の全てが愛しく、中でも笑顔が好きだった。妻の笑顔を見れば、一日の疲れが吹き飛んだ。だから、男は結婚してからの十年間、毎日妻への手土産を欠かさなかった。
「お風呂沸いてるけどどうする?先にご飯にする?」
男は少し考えてから「ご飯にするよ」と、答えた。
「うん、分かった。すぐ準備するから、その間に着替えちゃって」
妻はそう言ってとてとてと台所に走って行った。
部屋着のジャージに着替え、居間へと入るとテーブルの上には既に夕飯が並び、妻が座って待っていた。
「こいつは旨そうだ」
男は感嘆の声を上げた。
「あなたの好きな肉じゃがにしてみたの」
男にとって、妻の手料理はどんな高級料理にも勝るものだった。たかが肉じゃがでも三ツ星シェフの作る料理が霞んでしまう、それ程までに男は妻の手料理を気に入っていた。
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