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   受付ロビーの人混みがうそのように、入院病棟は静かだった。  包帯やシップのにおいが漂う廊下に、コツンコツンとパンプスの音が響く。  お見舞い品には小さくカットされたカットメロンを選んだ。和菓子は当然NG。初めは、洋菓子ならいいかとは思った。なにせ瑞穂はショートケーキや甘いものに目がない。ただ、彼女の父親が看病に来ていたらちょっと気まずい。そう思って結局メロンにした。    真理子は足を止め、ドアの開いた病室を覗く。  個室の部屋でベッドはひとつ。手前にカーテンがかかっている。瑞穂はいるだろうか。気配から、看護師や付き添いの父親はいないようだ。  すでに片足が病室に入っていたが、ドアを三回、軽くノックしてみる。返事はない。 「みずほー」と小声で呼びかけてみるが、やはり反応はなく。  真理子はヒールが音を立てないように気にしながら、室内へと進んだ。  カーテンの向こうで、瑞穂は眠っていた。  前に来たときには額に巻かれていた包帯。それがいまはとれている。傷も目立たない。目の下の隈もうすくなっている。  自分と同じ二十六歳の女性とは思えない、無垢な寝顔だった。     
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