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 伝話は、電話とは色々違います。  電池もいらないし、電源が入っていなくてもいい。  ただ、伝えたい思いがあれば、それをちょっとだけ道具や魔法で助けてやればいいんです。 「……課長さん。山田さんを心配してるなら、そう言ってあげてください」 「――!?」  この伝話が切られないのは、理由があります。  さっきも言ったけど、課長さんはまだ、山田さんに伝え切れてない想いがあるんです。 「課長さんが伝えないと、伝話が終わりません。山田さんはずっと、ここでドアが開くのを待ってることになります」  本当は伝えたい思いがあって、しかもそれが急を要するなら、一度つながった伝話は簡単には切れません。  課長さんは、山田さんに切ってもらいたがってる。山田さんに自分で、何かに気づいてほしがってます。  だから強い口調で、怒ってるように言うんだなって。それだけは、わたしにもわかったから。  息をのんだ課長さんが、少しの間、じーっと黙りました。 「…………」  その後、とても小さい、ぼやくような声が聞こえました。  本当にあいつは、人の話をきかない……。  そう言いながら、大きな大きなため息をついた、課長さんの渋い声なのでした。
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