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 事務所、もとい廃ビルの二階に上がってから、わたしは大切なことに気が付きました。 「あっちゃあ……しまった……家の方に送ってもらえば良かった……」  普通のバイトさんは、タイムカードというのを押すらしいけど、この廃ビルにそんなお洒落なものはないです。  失せ物探し、終わったと言っていいのかどうかだけど、別に事務所に戻る必要はなかったよね……。  夜八時ともなれば、外はもう真っ暗で、この辺は特に都会にしては裏通りで、街灯も少ないんです。  夜には出歩くな、危ないことはするなと、わたしはずっと兄さんから言われてるから。  兄さんから見ると、わたしは危なっかしいらしくて、兄さんこそってわたしはいつも言いたくなるんだけど。  でも、今日みたいなことなら、ちょっと楽しかった。  最初は気が重かったし、わたしはあんまり、お仕事を楽しいって思ったことはないんだけど……。  所長もいないし、帰らなきゃと思っていたら、不意にぎいっと二階の扉が開きました。 「――あぁ? こんな時間まで何やってんだ、猫羽」  黒に近い銀髪で、わたしの父さんと同じように、前髪の一部だけが黒い親戚のおにいちゃん。  もとい、わたしが外回りに出る元凶になった、さぼりっぱなしの探偵さんです。
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