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白箱のスターチス
ここがどこかわからず、僕は怖くて怖くて仕方がなかった。真っ白な壁、空間を遮断するカーテン。なんとなくここが病院だという事がわかった。いつの間にか、入院してしまっていたようだ。辺りが暗い。もう夜中だろうか。そう思いながらふと起き上がろうとすると、ずきりと左足に痛みが走った。
「痛っ。」
「あら、音尾さん、寝てなくちゃダメじゃないですか。」
薄ら黄色のカーテンから白い服を着た看護婦さんがやってきた。その瞬間に周りが明るくなって、まるで(天使が舞い降りたようだ……)だなんて、口に出すにはあまりに恥ずかしい事を頭の中でだけ呟いた。そんな恥ずかしい自分の思考回路を遮断させるため「あの、初めまして。」なんて声を発した。
僕はそれでも恥ずかしくて、一度うつむいて「今は夜ですか?」と聞く。看護婦さんは「お昼の2時ですよ。」と、カーテンを大きく広げてくれた。暗かった空間に陽の光が差し込んできて、どうやらここは四人部屋であることがわかった。看護婦さんは荷物をパイプ椅子に置くと、僕の背中と左足にそっと手をあてて「ゆっくり横になりましょうね。」と、優しい声音で話した。看護婦さんが触れた場所からぬくもりを感じ、不思議と痛みも和らいだように思う。
「はは。」
「どうしました?」
「いやね、昔本で手を当てて治すから手当てというんだっていうのを読んで。なるほど、まさにその通りだ。」
僕の言葉に看護婦さんは「治っちゃいました?私の手は魔法の手なんです。」なんて屈託のない笑みをこぼした。
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