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「音尾さん、手術の日が決まりましたね!」
看護婦さんは満面の笑みを浮かべてやってきた。同意書には、木曜日に骨折の手術をするということが書かれている。
「そういえば家族に詳しい話をするって言っていたけど、家族は僕がここにいる事知ってるのかな。」
「大丈夫ですよ、もうお話は済んでますよ。」
「そういえば会社にも連絡してない。ちょっと電話を借りたいんだけど。」
起き上がろうとして左足が痛む。そういえば骨折の手術をするんだったな。どうしよう。このままじゃ無断欠勤になってしまう。まだ配属されて間もないのに、このままでは信用も失ってしまうし、何より先輩たちに迷惑をかけてしまう。どうしよう。どうしよう、立ち上がろうにも足が痛くて動かせない。
「電話しないと。皆に迷惑をかけてしまう。」
「大丈夫ですよ。私が電話しておきました。皆、音尾さんがここにいる事は知ってますよ。」
「君が連絡を?そうか、迷惑をかけてごめんね。 」
看護婦さんは起き上がろうとする僕を制止するように、僕の肩に手を添えた。看護婦さんの手には安心感が詰まっているのかもしれない。慌てていた気持ちがふと消えていった。看護婦さんは微笑んでパイプ椅子に腰を下ろした。
「私がちゃんとついてますから。安心してください。」
「そうだね。うん。いろいろ迷惑をかける事もあると思うけど、よろしくね。」
看護婦さんには不思議な力を持っているようだ。まだ会って間もないというのに、まるで昔から僕を支えてくれていたかのように感じる。看護婦という仕事の偉大さを思い知らされた。同時に、他の患者も彼女に対してこんな風な感情を抱いているかもしれない不安も、思い知らさる。
僕はこのカーテンの中にいる看護婦さんの姿しか知らないのだ。この外にどんな輩が潜んでいるのかもわからない。この白い箱の中から出られない僕が、看護婦さんを守る事なんてできるだろうか。
「大丈夫ですよ。私、ずっと音尾さんと一緒にいますから。」
「ありがとう。君は優しいね。」
その優しさが愛しい反面、少し僕を不安にさせるのだ。
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