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「今日は寒いですね、音尾さん。」
ベージュのカーディガンを着た看護婦さんがやってきた。起き上がって迎え入れようとすると、左足に激痛が走る。ああ、どうしてこんなに痛いんだ!と左足を睨みつけていると、看護婦さんは僕の背中に触れてベッドへ誘った。それから、僕の肩に一枚のタオルケットをかけてくれた。
「明後日の手術に備えて、風邪ひかないようにしないと。」
僕のためにタオルケットを家から持ってきてくれたらしい。(天使だ…。)看護婦さんはふわりと笑って「手術して歩けるようになったら、一緒にお散歩しましょうね。」と言った。これはデートのお誘いだろうか…。いや、社交辞令的なものか?それでも、こんなによくしてくれる看護婦さんに何かお返しが、プレゼントでもあげられたらいいのだが。
「花は、好きかな。」
「花ですか?花は好きですよ。」
「そ、そうか。僕も花は好きなんだ。」
それなら、花束なんてどうだろう。キザに思われてしまわないだろうか。 今まであまり女子と関わったこともなく、女の人が何をもらって喜ぶのかわからない。
「音尾さんは何の花が好きなんですか?」
「僕かい?そうだな、僕はスターチスが好きかな。」
「スターチス!」
その名を聞いた途端、看護婦さんはぱぁっとさらに表情を明るくさせた。心臓が高鳴ったのがわかる。ある日母さんが記念日だからと買ってきたのがスターチスだったのだ。庭先に花を飾る母さんの笑顔が好きで、僕はあっという間にその花が好きになって、同じ時期になると毎年花屋に買いに行ったのを覚えている。
「うれしい!私も、スターチスが一番好きです。」
「同じ花が好きなんて、奇遇だ。」
数ある花の中から同じ花を好きになるなんて。きっと母さんが飾った花が別の花だったなら、今こうして看護婦さんの素敵な笑顔を拝む事もなかっただろう。
もし僕が歩けるようになったなら、まず一番に花屋に行こう。そして、両手に余るくらいのスターチスの花束を看護婦さんに贈ろう。
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