白箱のスターチス

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+++ 「音尾さん、おはようございます。」 どうやら昼寝をしていたようだった。看護婦さんが立ち上がるのに合わせて僕が起き上がろうとすると、看護婦さんは「寝たままでいていいんですよ。」と僕の手に触れた。看護婦さんの触れた手から全身が温かくなっていくような気がした。心臓が高鳴ってやまない。 「昼寝をしていたせいで昼食を食いっぱぐれてしまったみたいだ。よかったら一緒にどうかな。」 「音尾さんたら、さっきお昼ご飯は食べたって聞きましたよ。」 どうにも寝ぼけてしまったようだ。言われてみれば食べたような気もする。一緒に食事ができる口実になると思ったんだが。看護婦さんは「その代わりと言ってはなんですが。」と、台の下に納まっている冷蔵庫から二つプリンを取り出した。 「おやつ、食べましょう。」 悪戯するように笑いながら、そのうち一つの蓋をあけて僕によこした。僕が好きなメーカーのプリンだった。看護婦さんはスプーンの袋をあけて僕のプリンに差し込む。 「すごい。これ、僕、好きなところのプリンだ。」 「ここのプリン、美味しいですからね。」 看護婦さんはそういうと自分の分のプリンの蓋を開けて、美味しそうにそれを口に運んだ。僕の好きなものを用意してくれるなんて、なんて気の利く人なんだろうか。こんな一患者のためにこんなに献身的になってくれる看護婦さんなんて、この世にこの人以外いないだろう。プリンを食べる看護婦さんに「ところで、仕事はいいのかな?」と、少し意地悪を言ってみた。看護婦さんは少し考えるようにスプーンを泳がせると、視線を僕に戻して「今は、音尾さんと一緒にいることが私の仕事です。」なんて、微笑むのだった。
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