白箱のスターチス

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+++ 「手術は中止、という事ですか?」 僕の隣で看護婦さんが医者に向かって言った。詳しい話はよく分からないけど、新機能がどうとかいう話だった。機材の話だろうか?僕は左足を骨折していて、数日ここに入院していて、手術を待っていたのだという。 「僕は手術をしないといけないので、他の病院に行きます。」 「他の病院に行っても今の状況では同じ結果だと思います。状態が落ち着くまでは様子を見ましょう。」 「散々待たされたんだろ?これ以上ここで何を待てって言うんだ。」 「今のままでは手術をする事で命を落とすリスクが高いんです。」 「そんなわけないだろ!足の手術で死ぬっていうのか?!このヤブ医者!」 沸々と怒りがこみあげてくる。きっと入院期間を長引かせて入院費を多く貰おうという魂胆に違いない。台に置いてあったカレンダーを掴み、ヤブ医者の顔に投げつけると、ヤブ医者の眼鏡が落ちる。看護婦さんがヤブ医者の眼鏡を拾う姿を見て、僕は抑えていた何かが壊れてしまったように感じた。 「君もこの医者の仲間なのか?君も僕の邪魔をするつもりなんだな!僕にいい顔しておいて、その医者の言いなりになりやがって!ふざけるな!」 「音尾さん落ち着いてください。ね?」 僕がヤブ医者の胸倉を掴んでやろうと思い起き上がると、看護婦さんが僕の身体を抑えようと手を伸ばしてきた。僕は看護婦さんのそんな動作ですら鬱陶しくて、思わず全力で押し返してしまった。華奢な彼女の身体は綿のように軽く飛んで行った。 「あっ!」 「佐藤さん、どうし…大丈夫ですか?!」 「ちょっと人呼んで。あとセレネース1アンプル!」 他の看護婦がカーテンから入ってくる。佐藤さん。こんなところで看護婦さんの名前を知れて、うれしいはずなのに…。看護婦はヤブ医者に指示を受けると、看護婦さんを抱えてカーテンを閉めて行った。 「あまり興奮しないでください。心臓に負担がかかりますから。」 「うるさい!お前のせいだ!あの人をどこへやる気だ?!」 すぐにやってきた看護婦たちが僕の腕や足を掴む。僕は全力でそれを拒むが、足が痛くて動かない。ああ、変な注射を打たれてしまう。嫌だ、いやだ、殺されてしまう!こんな病院にいたくない!僕は手術をして、足を治さなきゃいけないのに!約束をしたんだ。一緒に散歩したいと言ってくれたんだ!助けて、助けて看護婦さん!
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