284人が本棚に入れています
本棚に追加
「彼はいいんだ、同席してもらう。……座りたまえ」
暁斗の表情を読んだのか、久我山が目尻に皺を刻んだ。
「はい。では、失礼します」
緊張で震えそうになる声を抑えながら、暁斗は見知らぬ男の向かいに腰を下ろした。
男の方をちらりと見る。
三十代前後だろうか。整った顔立ちには、まだ若さが残っている。だが青臭さは感じさせない。
態度が落ち着き払っているというだけでなく、どこか隠しきれない気品が溢れており、暁斗はつい目を奪われた。
彫りの深さとゆるやかに波打つ灰色がかった髪が、どこか欧州の血統を思わせる。座っていてもわかる長身と手足の長さから、ひょっとすると、本当に欧米人の血が混じっているのかもしれない。
ソファに沈む体躯はどちらかというと細身だが、服の上からもわかるくらいにしっかりとしている。その精悍さが、貴族然とした容貌に鋭さを加えていた。わずかに伏せられた目も、静謐ながら甘さを感じさせないものだった。
冷ややかだ。しかし美しいと、暁斗は率直に感じた。
親の仕事の関係もあり、華族に列せられた人々とも接する機会があった暁斗だが、この男性は彼らのうちの誰よりも高貴な印象を暁斗に与えた。
最初のコメントを投稿しよう!