第一章 邂逅

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優しい口調で述べられた久我山の説明に、暁斗はようやくなるほどと頷いた。 祖父と父の強い希望で、暁斗は幼少期からフランス語教師をつけられていた。今後欧米との交易はますます盛んになる、通訳なしでも話せる技量を身につけておけと常々言われ、暁斗も素直に励んできた。 結果、日常会話くらいならなんなくこなせるようになったが、おかげで少々浮いてしまっている。当時はドイツ語が優勢だったということもあり、滑らかにフランス語を操る暁斗は珍しかった。おそらく久我山は、その評判を耳にしたのだろう。 「私には半分フランスの血が入っている。向こうで過ごした時間も長い。日本に来て随分と経ったが、フランス語の響きが懐かしくなってな。共にフランス語で会話をしたり、疲れている時に詩でも朗読してくれる相手がいればと、ずっと探していた」 上條は、暁斗の目を真っ直ぐ見ながらそう言った。色素が薄い上條の目は、日本人にはない蠱惑的な雰囲気をまとっている。 なるほど、先ほど抱いた印象は間違っていなかったらしい。肌の色の白さも、手足の長さも、やはり欧米の血によるもののようだ。 鋭さを秘めた上條の目を見ながら、しかし、暁斗は頭を悩ませた。     
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