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直接フランス人から習っていたため、暁斗の発音は悪くない。大学で教えてくれているフランス人教師とも、普通に会話できている。こんなにも美しい上條の役に立てたら、暁斗自身も嬉しいし誇らしいだろう。
しかし正直なところ、いまはそれどころではない。
「はい、あの、身に余る光栄です。……ですが、すみません。今はお引き受けできません」
「どうしてだね」
「新聞を読まれたかもわかりませんが、倒産を取り沙汰されております剣菱商会は、私の実家になります。何が起こるかもわからない状況で、おいそれとお引き受けするわけにはいきません」
引き受けるならば、きちんと責任を持って果たしたい。
引き受けたはいいが、一ヶ月もしないうちに実家に戻らなくてはいけなくなったら、上條だけではなく、紹介してくれた学部長にも申し訳が立たない。
しかし、上條は予想外の答えを返した。
「それは知っている。私の依頼を引き受けてくれたら、剣菱商会に資金援助を申し出よう」
「ーーーーえ……え?」
一瞬何を言われているかわからず、暁斗はひどく混乱した。
「お、お待ち下さい。お話がよくわかりません」
「言った通りだ。君には私の邸宅に住み込んでもらい、私の話相手になってもらう。その返礼に、君の家に資金援助を申し出よう」
「す、住み込み? 返礼?」
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