第二章 心酔

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第二章 心酔

上條伯爵こと、上條灯真の邸宅は、帝大から少々離れた目白の丘に建っていた。 近辺に細川侯爵邸がある一方で、少し足を伸ばせばのどかな田畑が広がる風光明媚な土地に、暁斗は未だ慣れることができない。 先日まで下宿していた湯島や実家がある横浜は、どちらかというと雑多で生活臭に溢れていた。帝大の雰囲気も、最高学府でありながら男しかいないためかざっくばらんで、瀟洒な上條邸に帰るたび、自分がひどく場違いに思えてしまう。 それでも下宿は引き払ってしまったし、暁斗はここに帰る他、行き先がない。 上條邸の敷地は広く、豊かな緑で覆われている。塀はあるが、その外の敷地も広く上條家の持ち物で、使用人達が生活する長屋が並んでいた。いっそこの長屋に住めたらいいのにと、暁斗は心の片隅で思ってしまう。それほど、上條邸は何もかもが立派だった。 斜面に建っている上條邸は、表門をくぐるや視界に入ってくる。白い壁は眩しいほどで、屋根は赤く染められた煉瓦を用いていた。 東西に広がった棟は左右で微妙に意匠が異なり、複雑なだけではなく目にも美しい。玄関の上にそびえる塔がまた、豪奢な雰囲気に一役買っていた。     
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