第二章 心酔

4/28
前へ
/207ページ
次へ
あまり表情を崩さない上條の優しさに触れるたび、この人の役に立ちたいと暁斗はより強く思うようになる。 だから、多少の寝不足など暁斗にとっては瑣末な問題だった。 「おかえりなさいませ、上條様」 その日も、夜遅くに戻ってきた上條を、暁斗は浴衣姿で出迎えた。 「まだ起きていたのか。寝ていても構わなかったのだが」 「上條様がお休みになられていないのに、休むわけにはいきませんから」 暁斗はそう言いながら、家令の代わりに上着を受け取る。 家令の佐野は高齢で、時間になったら休むよう上條から言付かっているらしい。それでも上條の帰りを待とうとする佐野を、暁斗が「私が代わりにお世話致しますから」と言って下がらせていた。 言い出した責任は負わなくてはいけない。暁斗は上條のコートをハンガーに吊ると、丁寧にブラシを掛けて衣装棚にしまった。 「お湯が沸いていますが、お風呂を召されますか?それとも先に、お茶でも飲まれますか?」 「君は使用人ではないのだから、そんな気遣いはしなくてもいい」 「置いて頂いている身ですから、これくらいはやらせてください」 暁斗は苦笑しながら答えた。     
/207ページ

最初のコメントを投稿しよう!

286人が本棚に入れています
本棚に追加