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あまり表情を崩さない上條の優しさに触れるたび、この人の役に立ちたいと暁斗はより強く思うようになる。
だから、多少の寝不足など暁斗にとっては瑣末な問題だった。
「おかえりなさいませ、上條様」
その日も、夜遅くに戻ってきた上條を、暁斗は浴衣姿で出迎えた。
「まだ起きていたのか。寝ていても構わなかったのだが」
「上條様がお休みになられていないのに、休むわけにはいきませんから」
暁斗はそう言いながら、家令の代わりに上着を受け取る。
家令の佐野は高齢で、時間になったら休むよう上條から言付かっているらしい。それでも上條の帰りを待とうとする佐野を、暁斗が「私が代わりにお世話致しますから」と言って下がらせていた。
言い出した責任は負わなくてはいけない。暁斗は上條のコートをハンガーに吊ると、丁寧にブラシを掛けて衣装棚にしまった。
「お湯が沸いていますが、お風呂を召されますか?それとも先に、お茶でも飲まれますか?」
「君は使用人ではないのだから、そんな気遣いはしなくてもいい」
「置いて頂いている身ですから、これくらいはやらせてください」
暁斗は苦笑しながら答えた。
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