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「朝の新聞を見て、こちらは大慌てだというのに……」
「あぁ、倒産がどうのとか書かれたようねぇ」
「そんなに悠長に構えていていいんですか、事業がそんな事態に陥ってるなんて僕は一言も……」
「暁斗さん、もういい年なんだから、僕はないでしょう、僕は」
「そんなことはどうでもよくてですね、お母様」
あわや倒産と書き立てられている会社の夫人とは思えないマイペースぶりに、暁斗は思わず頭を抱えた。しかし美代子は暁斗の心配をよそに、のんびりとした声で続ける。
「暁斗さんがお父様から何も聞いてないということは、その程度のことなんでしょう。変に気を回さなくて結構ですから、今まで通り学業に励みなさい」
「お母様、ちょっと、せめてお父様に話を……」
聞かせて下さい、と言う前に、電話は切れてしまった。もう一度かけてやろうかとも思ったが、あの調子だと父親に取り次いでもらえるかすら怪しい。
ああ見えて母は頑固だ。暁斗が気にする必要はないと彼女が判断したならば、父親にでも言われない限り、その考えを変えることはないだろう。
「はあ……」
暁斗は溜め息をつき、店員に謝意を伝え喫茶店を出た。
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