第一章 邂逅

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今年は残暑が厳しく、そろそろ九月も半ばだというのにまだ日差しが暑い。学帽を被った頭は今にも蒸れそうで、暁斗は日陰を選び大学に向かった。足元を焦がす日の光は、木の葉の影を色濃く道路に映している。 母親が言う通り、心配することはないのだろうか。確かに新聞記事は、人目を引くため大仰に書くきらいがある。 それに、剣菱商会はずっと堅実に商売をしてきた。勝負を仕掛けないわけではないが、祖父や父の時流を読む目は確かだ。 取引先や銀行ともずっと良好な関係を築いているし、少しくらい失敗したところで、倒産に及ぶような痛手を負うとは思えない。 だが、美代子のあまりにいつも通りすぎる対応が、却って気になった。わざとらしくも感じられるし、どうやっても父親には取り次ぐまいとしているようにも思えた。 「やはり……本当なのかな……」 そうだ、他社の新聞を読めば別の見方もできるかもしれないと思いついた暁斗は、大学内近くの売店に寄ってみた。売店は既に学生で賑やかしく、暁斗はそれに慰められるような、却って気後れするような、複雑な気持ちになる。 晴れない気持ちのまま数紙の新聞を買うと、暁斗は教室でばさりと広げた。経済面に目を通そうとした時、頭上から「おはよう」と声が掛かる。 「三田村か。おはよう」 「白河、なんだかえらいことになっていると聞いたが、本当か?」     
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