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しかし、今はそんなことに突っかかっている場合ではなかった。
「……家を手伝うべきだろうか」
「は?なんだそれ。大学はどうするんだ」
「辞めるしかないだろう、だって」
「よせよせ。本当に辞めなくちゃいけなくなったら、親が言ってくるだろう?それまではどんと構えておけよ」
あまりにも楽観的な友人の意見に、暁斗はひっそりとため息をついた。
三田村の危機感の薄さは、生家が豪農であるためだろう。いわゆる名主というやつだ。明治のご一新で名主制そのものは廃止されたが、未だに地方で実験を握っているのは、名門家系である名主や庄屋の家だった。村長を務め、また季節折々に農作業を先導する彼らは、名実ともに地域を支えている。
地に足がついているからこそ、事業の倒産がどういう意味を持っているのか実感がないのかもしれない。事業の倒産は、文字通り露頭に迷うことを示している。
暁斗の父勝治は、非常に頑健かつ剛毅な人物だから、露頭に迷ったところでどうにか生活は再建できるだろう。幸いにして祖父母は壮健だし、暁斗もいたって健康だ。大学を辞めても、糊口をしのぐ程度の仕事にはありつけるだろう。
しかし、雇っている人々は。
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