第一章 邂逅

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事業主は、自分の家族以上に従業員を守らなくてはいけないと、勝治は常々言っていた。彼らを雇った以上、生活に責任を持つのは自分だと。 その意見は正しいと、暁斗も思う。だから容易には倒産できないし、事業が厳しいのであれば、帝大の学費や下宿にかかる費用を、一円でも一銭でも軽くしたかった。 しかし暁斗の両親の性格を考えれば、きっと自分たちの何を切り詰めてでも、ぎりぎりまで暁斗を大学に通わせようとするだろう。 事業は祖父の由貴次郎(ゆきじろう)の代から始まったものだが、勝治が幼い頃はまだ軌道に乗っておらず、十分な教育を受けることができなかった。そのことを由貴次郎は未だに深く悔いているし、口には出さないが勝治も残念に思っているようだった。 実際、あれだけ才気走っている勝治が高等教育を受けられていたら、もっと様々なことに挑戦できただろうと、暁斗も内心で思っている。 だからこそ、両親は暁斗の教育に熱心だった。幼い頃から家庭教師がつけられており、帝大に合格した時には、家族全員が飛び上がらんばかりに喜んでくれた。しかし。 「負担になるために、通っているわけじゃないから……」 「何を言ってるんだ。負担かどうかは、お前の両親が決めることだろう。白河は成績優秀だし、報恩としては充分だ」 「報恩するなら、今はお金で返したいよ」     
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