第1章

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 学生の頃は金がなく、俺は安アパートで暮らしていた。トイレと風呂が共同で、壁が薄く困ったもんだが、それ以外で困ることはなかった――そのアパートの中では、だ。外では、少々困ったことがあった。  二階建てのアパートには、反対側のこれまた同じタイプのアパートが建っている。丁度向かい合わせに、窓と窓がなっており、反対側の部屋と対面してしまうのだ。 「……す、すいません」  つい、謝ってしまう。  向かいの部屋には、女性が住んでいた。  三十代半ばぐらいのようだ。髪はぼさぼさで、着てる服は灰色のスウェット、大分汚れていて、腹には染みらしいのがついてる。彼女はこちらを、じっと見つめていた。  俺はこのとき、申し訳なさそうに頭を下げた。何となく妙な威圧感があったのだ。速攻でショッピングモールに向かい、カーテンを含めた雑貨品を購入。家に帰ると、即座にカーテンをつけた。 「ど、どうも」  あの人はまだこちらを見ていた。  まさか、あれからずっと?  いや、そんなわけないか。俺は冷や汗を流しながら、カーテンをつける。  翌日、サークルのために早起きをする。眩しい日差しがカーテンでさえぎられてる。カーテンを開けて――あの女の人が、また見ていた。 「え」  カーテンを閉じた。  俺はわけも分からずコーヒーを飲もうとした。落ち着こうとしたのか。いや、冷静じゃなかった。インスタントの粉を盛大にこぼし、暑いお湯が手にかかる。「あちっ」ようやく自分が震えてることに気づき、寝癖を整えるのも忘れて、家を出た。  それ以降も、彼女は俺の部屋をのぞいていた。頻度、時間は不明。カーテンを開けると、必ずあの女性と目が合うので、俺が開ける前からのぞいていてるらしいが。……まさか、ずっとこちらを?  バカな。  俺は管理人にも相談したが、トラブルはそっちで解決してとアテにならず、引っ越したばかりで金もないから、逃げようがない。仕方ないので、カーテンさえ開けなきゃと――自分に言い聞かせ、結局は大学卒業までいた。四年間だ。  で、今は就職し、都内でマンション暮らしをしている。  それなりに良い暮らしをしてる。交際してる女性もいて、仕事も好調、だからか、俺はあのときの恐怖を忘れていた。もう、あんなことは起きない。今後の人生に関わることはないと信じていた。  俺は七階の部屋にいる。ベランダの窓から広々とした光景がのぞけて、爽快であり。
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