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「…………先田くん、お願いがあるんだ。」 突然、とても優しい声になった先輩。 普通だったらすごく動揺するようなことなのに、全然表情の変わらない先輩の様子がとても恐ろしい。 僕は緊張のあまり、喉の乾きを覚えた。 ──── 僕は、テレビ局の前に停めた車の中から出入り口の辺りを確認した。 すでに、ここに来てから二時間近くが経過している。 目当ての人物は見つからない。 僕はまたシートに座り直した。 目当ての人物は、居るとしたら外なのでもしかしたらもっと離れた場所に隠れているなかもしれない。 先輩からの先日の言葉を思い出す。 「私を助けてほしいの…………」 先輩と会っていたのは芸能人のタクマだったそうだ。 タクマと先輩はこっそり付き合っているらしい。 そして、タクマに熱狂的なファンの子がストーカーになってしまったからどうにかしてほしいと頼まれたそうだ。 僕は、自分の彼女にそんな事を頼むなんておかしいと言ったのだが、先輩は彼から「他に頼る人がいない」と毎回言われているらしい。 毎回と聞いて驚いたが、他に頼る人がいないというのも僕からしたら疑わしかった。 だって、会話の最中に別の女の人に頼むような事を言っていた気がしたから。 そんなこともいろいろ話して、先輩がやる必要はないと説得したのだが、自分がやりたいからやっているのだと突っぱねられた。 それなのに、助けてほしいとか言われて僕はどうすれば良いのか分からなくて困ってしまった。 でも、目の前で泣き出してしまった先輩を放ってはおけなかった。 仕事を休んで、手伝ってしまっている。
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