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 暗く、じめついた場所。ここはどこだろう? わたしは……灯りもない、細くのびた、通路を歩いていた。  壁や床は、手でふれるとざらざらとして堅い。コンクリートのようだ。そして辺りにはかすかに、汚水のにおいがただよっていた。そして左手には、なぜか鉄のパイプ? がにぎられている。  わたし……どうしてこんなところにいるんだろう? わからない。前後の記憶がまったくない。  いや、そんなことよりも。大変なことにわたしは気づく。そう。わたしの体が、自分の意思とまるで関係なく、勝手に動いている! それは異様な体験だった。どうなっているのかまるでわからない。  ともあれわたしの体は、用心深く、周囲に注意をはらいながら、進んでいるようだった。そして、とあるドアの前に立ちどまると、耳をそばだてて、どうやら中の様子をうかがっているらしい。ただよってくる緊迫した雰囲気に、訳もわからずに、ただ見ているだけのわたしも自然と息をころしていた。  わたしの手がドアノブをつかむ。そしてゆっくりとまわした。錆びついているのだろう、ギシギシと軋む音をひびかせながら、それはゆっくりと奥にむかって開いていく。  室内は暗く狭かった。よどんだ空気に思わず咳き込むわたし。部屋の奥、その暗がりの中に、誰かがいるようだ。  近づいて確かめると……何てことだろう! 両手、両足をうしろで、荒縄によってしばられた格好の、女性が横たわっていた。  若く、そしてハッとするほど美しい女性。はじめて見る顔だ。そのはずだった。  だがしかし、何だろう? すでに見知っているような、そんな既視感をおぼえずにいられない。
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