9. ララバイ

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「これを君に」 「でもそれは……先生の大切な鞄です」 「君が持っているんだ。中の物は貴重だよ」  ユキがジッと遠藤の顔を見つめた。 「君に渡すべきかどうかずっと悩んでいた。この世界には無い技術だ。知識の具現だよ。そういった物は常に諸刃の剣だ。人を生かし、人を殺す。それでもいつか君を……君の大切な人を救う事になるだろう。そう考えると、放っておいたっていつかはこの世界もこれに追いつく。それなら僕は今、君という人間の為にこれを役立てたいと思ったんだ」  ユキの瞳に涙が滲む。 「……偉そうなことを言ってみたが、まあ、単純に君へのプレゼントさ。使い方なんかも書いて入れているから、読んでくれよ」    そう言うと遠藤は笑った。  ユキは涙を指で拭いながら鞄を受け取った。    遠藤の手にはユキの手紙が握られる。 「任せてくれ」 「ありがとうございます」    隣にいるアルスが先生の鞄を引き受けた。 「大丈夫か?」  泣いているユキが心配になりアルスが声を掛ける。 「うん。その鞄、プレゼントだって」  ユキが微笑むとアルスはホッとした顔をした。  そして遠藤に向き合った。 「先生。父を診て下さりありがとうございました。お元気で」  ユキが日本語でそれを遠藤に伝えると、遠藤は「お大事に」 とアルスに微笑んだ。
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