1. on the beach

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 ――――そうなのだ。  私は至って普通の日本の大学生だ。  それがある日突然、自分のいた場所とは違う、別の世界に放り出されてしまった。  この世界にある、全ての言葉を理解できたからこそ、偶然リュックに入れていた『医療基礎学』という本を翻訳することになった。  この世界に無い知識を伝える女性―――――『月の女神』なんて人々には呼ばれるようになってしまったし……。  はあー。  『女神』なんてガラじゃ無いんだけどな……。    この本の翻訳を終えて、早く日本に帰ろうと思っていた。  だけど私は出会ってしまっていたのだ。  ずっと一緒にいたい、離れることのできない、唯一(ゆいいつ)の人と。  まあ、……たまたまその人がこのサマルディア皇国の皇太子だったので、今こういう状況になっているのだけれど…………。 「ユキ様。手が下がっております」  そう言われてユキはグイとまた両手を水平に上げる。  このサマルディア皇国の皇太子の結婚式である。国家的大プロジェクトであることは間違いない。  そんな事はユキだって百も承知だ。  それでも一つ一つ、細かくスケジュールを突きつけられているとウンザリとしてしまうのである。
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