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大家さんは門のところから私達をいつまでも見送っていた。
角を曲がるところで、私は陵平と一緒に再び頭を下げて部屋に戻った。
机に広げたままの書類には、確かに光平という名前が書いてある。
日付を探すと、大家さんが言ったように七年前の西暦が書かれていた。
そして部屋の隅に置いてあった黒いカラーボックスに小さな仏壇らしきものを確認した。
ごく普通の写真立てに遺影と筆で書かれた名前が納められている。
「記憶だけじゃ頼りにならないってことだな」
私はため息をついた。
背中を丸めたまま仏壇の前にへたりこんでいる陵平が小さな少年に見えてくる。
「なんか、すごい意外な展開で頭が付いてこない。この際だから、先入観を一度全部こっちへ置いて見直してみよう」
私は頭を一度リセットしてからそこにある書類を時系列に並べていった。
そして見えてきたのは、陵平が大叔父さんの光平さんに引き取って貰ってから来週で丸7年目だという事実だった。数少ないであろう数枚の写真には確かに陵平の成長が垣間見える。
小学校も中学校も一応通ってはいたようだ。
実際、私は転校してから中学に上がるまで陵平とは同じクラスだったのだから。
ここにある写真からは、まるで生気がなくて生きることを拒んでいるような暗さだけが目に付いたが、学校での彼の様子は時々影を感じる程度で、皮肉屋な一面を持ったごく普通の少年だった。
陵平が悪魔に取りつかれていたせいで、現実を現実としてとられられていなかったんじゃないだろうか。
「ビョン」
私は頼りがいのある相棒の名を読んだ。
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