第8章 真実の記憶

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すると、彼は最初からそこに居たかのように現れた。 「人は見かけによらないのですね。彼の心の闇は辛い過去を記憶から消していた・・・。佐伯美貴さんと同類だったのですね」 「そのようだな」 私は急激に疲労を感じた。 「歪んだ時空の中に閉じ込められると、まるでタイムスリップしたかのような錯覚に陥ることはあります。 潜在意識の中に居座っていた夢魔が記憶を封じ込めていたとも推測できそうです」 ビョンデットの言う通りだろう、と思う。 私が陵平の立場でも、きっと同じように混乱と恐怖で一度には受け入れ難いことが今まさに起きているのだ。気の毒な話だが、問題の祖父は他界している。私は仏壇の前に鎮座する小さな写真縦を改めて良く視た。 微笑む祖父は老人とは思えない程に若々しい。 若い時の写真なのかもしれないが、まだ50歳前の中年にしか見えない。 陵平の夢の中で見た祖父はもっと白髪頭で痩せていた。 「ねぇ、陵平。この写真ていつのやつ?」 やっとこちらを見た陵平の顔はやつれている。 それでも私の手元にある遺影を見て、ポツリと答えた。 「俺が4歳の誕生日に家族で撮った写真なんだ」
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