第8章 真実の記憶

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看護師さんの背中が視界の隅へと消えると、見たこともない初老の男性が私の顔を覗き込んできた。 目が合うと、そいつは微笑んだ。 「大変な目に遭いましたね。でも、命が助かって本当に良かった。 私は刑事です。あなたはあの時何が起きたのか知っていますね?」 あの時? 私はぼんやりと思い出そうとしていた。 でも、覚えていると言っても誰が誰でどんな関係なのかさっぱりわからない。 私の沈黙を勝手に解釈したのか、刑事はため息をついた。 「・・・そうか・・・。 あの惨状だ。ショックで思い出すのも難しいのかもしれない・・・」 独り言なのか、私に言っているのかわからないような口調だ。 「あの」 私が言った。 「惨状ってことは・・・誰が死んだんですか・・・?」 刑事は屈み込んだ姿勢をより低くして枕元に顔を持ってくると、神妙な面持ちでゆっくりと説明してくれた。 「私が現場に駆け付けたとき、辺り一面は血の海だった。その中に、君がいた。 全部で16名いたが、生存者は二人だけ。君ともう一人は加賀谷俊基だ」
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