「火」「テレビ」「バカな城」

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「火」「テレビ」「バカな城」

「こちらに見えますのが、日本一火に強い城、鬼炎城です。」 「おお、あれが…」「テレビで見たことあるー!」 お客様が思い思いに感想を述べられる。私はツアーのこの瞬間が大好きだ。 時には八年もガイドをやっている私でも、教えられる感想が飛び出すから――。 「この鬼炎城は約500年もの間、一度も炎上した事の無いお城なんですよ。 そのせいか消防士さんがお参りに来るんです。『消えん』なんて、 名前は不吉極まりないんですけど。」どっ…、笑い声が上がる。 「でもこの城、確か周りのお堀は全部重油なんでしょ。何で今まで燃えなかったの?」 「何故建てたし。」「タバコはよしとこう…」「バカだ、バカな城だ。」 おっと、予習済みのお客様でしたか。だったら説明しないと。 「確かにご指摘があった通り、周りは油になっていて、火矢での襲撃にいたく手を焼いたそうです。」当たり前だ!…皆様から突っ込みが入る。でもね…「でも、この城は一度も燃えた事が無いんです。それは、源之助と呼ばれるお侍の働きがあったからなんです。」「源之助?」ざわつく中に、私が続ける。 「昔、城主の鬼炎家に、待望の男の子が産まれようとしていたその最中、敵武将が城に攻め入ったのです!」ごくり、固唾を飲む緊張感が周りに伝播してゆく。 「そこに先陣切って城を守ったのが源之助!しかもこの源之助、姫への恋心をしたためた文を見付けられ、遠方の戦地に飛ばされていたのにです!」 きゃああ!、お客様から黄色い歓声が上がる。私も周りも、熱くなってきた! 「急ぎ駆け付け、背後を取った源之助!火矢を受けながら敵を切り倒す!気迫に押され、消耗を避けた敵将は、そのまま退却し、以降一度も延焼を許した事が無いという話です!」決まった…!と同時にわっ…!と悲鳴が…ん?悲鳴……? 「そんなバカな…」 日本一火に強い城が、タバコのポイ捨てで炎上していたのだ。
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