愛して、先生 lack of skill

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「拭きましょうか、堀江先生」 「結構です」 藤原の手を押しのけ、 ティッシュで身体を清める。 辺りに漂う香りを払うためか、 藤原は窓を開けた。 「ねえ、堀江先生」 「なんですか」 「明日の夜は、予定ありますか?」 「ありません」 答えてから、後悔する。 嘘でもあると言っておけばよかった。 こういった質問の場合、 次に来る言葉は決まっているのに。 「じゃあ・・・デート、しません?」 藤原は俺を見つめる。 射るような、鋭い目で。 この目をするとき、藤原は必ず、 己の欲を貫き通す。 拒絶しても、意味がないのだ。 「・・・時間と場所は?」 「え、いいんですか?」 「どうせ断れば、画像を晒すと脅されるだけです。  それなら最初から従っておいた方が、話が早いでしょう」 「そ・・・っか」 藤原はしばらく考える。 その間に、予鈴の音が聞こえた。 「・・・藤原先生、授業が始まります」 俺の言葉に藤原は顔を上げる。 そして、不敵な笑みを浮かべながら、話し始めた。 「じゃあ、こうしましょう。明日の夜9時にKビルの前で」 「Kビル?」 「知りません?学校の近くの大きなビル」 「・・・調べておきます」 「場所がわからなかったり、間に合いそうにない場合は連絡ください。それと・・・」 窓を閉め、藤原が近づいてくる。 正面から俺の顔を見て、 「デートは、強制ではありません」 さらりと、言い放った。 「どういう意味ですか?」 「堀江先生が断ったとしても、画像を晒すような真似はしない、ということです」 画像を晒さない? こいつは何を言っているのかわかっているのだろうか。 もしそれが本当なら、 俺がそのデートに行く理由なんてない。 「・・・その話が本当ならば、私は行きませんけど」 「ええ、お好きにどうぞ。俺は待ってますから」 「100パーセント来ない人間を待っていても、時間の無駄ですよ」 「でも待ちます。それに俺は、確信していますから」 「何を?」 「堀江先生は、絶対に来るって」 呆れた。 その確信は、どうして持てるのだろうか。 「私は絶対に行きませんので」 俺はそう言い放ち、 藤原を残して部屋を出る。 藤原が何をしたいのか、 さっぱりわからなかった。
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