愛して、先生 ~壊れた欠片

12/52
前へ
/52ページ
次へ
終えてしまえば、急速に冷えていく。 冷静に、戻っていく。 ようやく息が整い顔を上げると、 藤原が何もせずに立っていた。 入り口の方を見ながら。 「・・・藤原先生」 「あ・・・はい」 「その格好で外を見ないでください。誰かに気づかれたら困りますので」 「そう・・・ですね」 ・・・いや、 ひょっとしてもう、気づかれたのではないだろうか。 はじめは机の上でしていたので、 入り口からは死角だった。 しかしこちら側は、入り口から見えてしまう。 「・・・・・・」 まさか誰かに・・・覗かれた? 「・・・藤原先生」 「はい」 「誰か、いましたか?外に」 「いいえ誰も。まあ6時前ですからね。みんな下校してますよ」 誰もいなかったか。 もしこんな場面を誰かに覗かれてしまったら、 俺はもう、ここにはいられなくなる。 おそらく、藤原も。 「堀江先生」 「はい、っ!」 突然、藤原が俺の前に座り込み、 今は萎えたそこに触れる。 「外しますよ」 「け・・・結構です。自分でできますので」 「だめです。最後までさせてください」 ティッシュで押さえながら、ゆっくりと外していく。 「後処理は楽ですけど、俺はつけない方が好きです」 「・・・そうですか」 「堀江先生はどちらがいいですか?つけるのとつけないのと」 「べ、別に、どちらも変わりません」 「じゃあ、これからつけなくてもいいですか?」 「いいですかも何も、命令されれば従うしかありませんので」 どちらも変わらない。 そんなことはなかった。 直接触れ合っているのと、薄い護謨を介しているのとでは 多少は違う。 どちらが良いかと訊かれれば・・・ いや、そんなこと考える必要は無い。 藤原の命令に、従うしかないのだから。 「じゃあ堀江先生、帰りましょうか」 「そうですね。お疲れ様でした」 「なに言ってるんですか、一緒に帰りましょ」 「私はもう少し残りますので、どうぞお先にお帰りください」 「じゃあ俺も残ります。まだ一緒にいたいから」 「・・・・・・勝手になさってください」 パソコンを動かし始める俺を、 後ろから見守る藤原。 そのときの俺の頭の中には、 あの避妊具を贈った犯人のことなど、 一ミクロも残っていなかった。
/52ページ

最初のコメントを投稿しよう!

36人が本棚に入れています
本棚に追加