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ほどなくして「二人とも、堀江先生が待ってるよ」という声が聞こえた。
と同時に、宇佐美が準備室へ入ってくる。
「先生、メスシリンダーはどちらへ置きますか」
「それは実験室へ置いたままにしてください。次の授業でも使いますから」
「はい」
宇佐美は小さく頷く。
しかし、その場から動こうとはしなかった。
「・・・宇佐美くん?」
「ほ、堀江先生・・・少し、ご相談が」
「相談?構いませんが、次の授業までに10分しかありませんよ」
「すぐ済む・・・と、思うので」
宇佐美はぼそぼそと言葉を紡ぐ。
担任でもない俺に相談、とは、
いったい何があったのだろうか。
「堀江先生、遅くなってごめんなさい。こいつがうるさくって」
「はあ?お前が危ないもん持とうとするからだろ」
「・・・ありがとうございます。横田さん、木村くん」
二人から薬品を受け取る。
準備室を出ても、二人はまだ言い合いをしているようだった。
ようやく、宇佐美と二人だけになる。
宇佐美は少し陰のある生徒だ。
声も小さく、人との会話も苦手なように思える。
刺激をしないように、悩みを聞きださなければ。
「お待たせしました、宇佐美くん」
「は、はい・・・」
「時間が許す限りお答えいたします」
椅子を勧めると、宇佐美は首を横に振った。
そして、下を向いたまま話し始める。
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