愛して、先生 ~壊れた欠片

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万が一話したことが気づかれたら、俺もあいつも無事じゃすまないかもしれない。 しかし・・・ 気がつくと、携帯電話の画面に触れていた。 【通話】の文字が浮かび上がる。 恐る恐る、耳に当てる。 『・・・・・・堀江、先生?』 呼ばれた瞬間、声が聞こえた瞬間、 何かがこみ上げてきた。 全身が、何かに打たれたように熱くなる。 「ふ、じわら・・・せん、せい」 俺も、口にする。 あいつの名前を。 電話の向こうで、あいつが吐息を漏らしたのがわかった。 満足そうな吐息。 藤原は、俺の声が聞きたかったに違いない。 それはおそらく、俺も・・・ 『今、お電話よろしいですか?』 「構いません。ちょうど帰宅したところですから」 『そうですか。でも、その・・・』 どうしたのだろう。 藤原が、なかなか話を進めない。 「・・・何の御用ですか?」 『あ、いえ、なんていうか・・・ただ』 「ただ、なんですか?」 『・・・ただ、声をききたかっただけ・・・なんです』 遠慮がちな声。 どうしてだ。 どうしてこいつの言葉は、 俺の心を掻き乱すんだ。 『うん、聞けたら満足しました』 「・・・そうですか」 『明日もありますし、もう切りますね。お付き合い、ありがとうございました』 「・・・・・・っ」 二人の時間が、終わる。 『では、おやすみな――』 「待ってください!」     
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