愛して、先生 ~解けた欠片

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『辛そうなのは・・・あなたの方よ。堀江先生』 望月先生の言葉が、頭に響く。 俺がいつ、辛そうにしていた? いついかなるときも、俺は無表情のはずだ。 だって俺は、人形になることに決めたのだから。 だが、望月先生が俺をそのように見たのならば、 きっと間違いはないのだろう。 ・・・あいつのせいだ。 あいつを関係を持つまでの俺は、 感情を殺した人形になっていられたのに。 「藤原先生、ひどーい」 ―――っ! 突然聞こえた名前に、 心臓が止まりそうになる。 恐る恐る声のするほうを見ると、 数人の生徒が集まっていた。 その中心にいたのは・・・あいつだ。 「酷くないって、小テストするっていってただろ?」 「きいてないよー、ねえモモ聞いた?」 「しらなーい」 「聞いていない方が悪い!絶対に小テストするからな」 なぜ、俺はこっちに来てしまったのだろう。 保健室から化学実験室へ向かえば、 教室のある廊下を通ることはなかったのに。 ここを通れば、 藤原がいそうなことくらい・・・察しがついていたのに。 「ほら、もうチャイムが鳴るぞー早く教室に戻れ」 「ふーんだ、藤原先生こそ、早く職員室戻っちゃえ」 「あはは、嫌われちゃったな・・・・・・あ」 藤原が、俺に気がつく。 しかし、すぐに視線をそらした。 そして、俺の横を・・・ 通り過ぎた。 こいつがそうするのは、当たり前だ。 ここにあるのは3年生の教室。 宇佐美が見ているかもしれない。 不自然な態度を取ろうものなら、 すぐに画像を公開されてしまう。 わかっている。 頭では十分、理解している。 だけど、 『辛そうなのは・・・あなたの方よ。堀江先生』 「藤原先生!」 「っ!?」 振り返って、走って、 藤原の腕を・・・しっかりと掴む。 そして、歩き出した。 「え、ちょっと、堀江先生!?」 「ナオちゃんが堀江先生に連行された!」 「なんか悪いことしたんじゃないの?」 藤原の戸惑う声も、 生徒たちの笑い声も、 今の俺にはどうでもいい。 俺の手が藤原の腕を掴んでいる。 俺が藤原に、触れている。 その事実だけがあれば、 あとは・・・どうでもよかった。
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