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「……もう、バカ」
何とも顔から火が出そうな話だった。そのまま気付かれないように寝室に戻ったが、悶えてなかなか寝付けなかったのを覚えている。
なんだかんだと良いながら、夫婦仲は良いのだ。
ぱたぱたとせわしなく動く母と、のんびり余り動かない父。この組み合わせ、思い浮かぶのは……
「ほら、あなた。早く準備して!」
せわしない朝。いつもの母の、急かす声。
その声を受けて、父はいつものんびりと返す。
「ん~」
分かっているのだか分かっていないのだか、生返事。
「んも~、あなたは毎朝毎朝! 今日は早くから会議があるんだから、早くしてよね! 社長が遅刻したんじゃ格好がつかないわ!」
いつもの光景だ。私は朝食を食べながら苦笑いでそれを見る。
「それじゃそろそろ出るからね! 戸締まりよろしく!」
おっと、今日という日はこのまま見てたんじゃ駄目なんだった。
「あ、ちょっと待って!」
せっかちな母はもう既に玄関から足を出していたが、それを引っ込めてこちらを見直す。
「何? 急いでるんだけど」
「ちょっとは落ち着いてよ。今日はお母さんとお父さんの結婚記念日じゃない」
「……良く知ってたわね。そうよ。父さんと母さんの24回目の結婚記念日」
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