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4月1日
あの時の彼の顔ったら。
思い出すだけで愉快になる。
彼がまず言ったことは「お前は小説家にでもなりたいのか」だった。
小説家ときたもんだ。笑ってしまう。
ここに綴ったことは創作で、私が若い男と情事を重ねるなど想像もつかなかったらしい。
ベッド脇のテーブルに忘れたふりをして置いておいたら、夫は私がいない隙に文庫本風のこの日記帳を読みふけっていた。
「やめて!」と取り上げたら、そんなことをいわれたのだった。
確かに、創作ではある。
どこのどいつだと聞かれても、架空の人物を捜し当てるのは不可能だ。
けれども、私は裕哉という大学生がいるそぶりをして話しを進める。
別れてほしいのだと。
「どうせ向こうは火遊びだろ。お灸を据えてやるからここに呼び出せ」
「やめてよ。自分の妻が未成年に手を出したって、事件にしてほしいの?」
「もういい。忘れろ」
夫はそう言い捨ててベッドに潜り込んだ。
友人に言わせれば、自宅を出て行く勇気があれば離婚なんてすぐだといった。
別居している事実があればいいのだと。
離婚届を置いて出て行けばよかったのに、こんな日記帳を夫に読ませるなんて。
見栄張って若い男と逢瀬しているふりをするなんて。
――本当に読まれてはならない日記はこれからだ。
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