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2章
「綺麗なお花はいかが?」
私は目の前の少年に話しかける。
私を飲み込むどす黒い闇を笑顔で必死に隠して。
少年は何も言わず、私の目をずっと見つめている。
怖い。逃げたい。
心の内を見透かされているようで、心の闇に気づかれているようで、息が詰まってしまう。
話しかけなければよかったーーー
「っ・・・あのっ」
詰まった空気に流れを作ったのは、少年だった。
柔らかそうなくすんだ赤毛と、ヘーゼル色の瞳は、彼の素直で純朴そうな雰囲気を際立てていて、同じくらいの歳のはずなのにどこか弟のような愛おしさを感じる。
ふと、すでにいない家族が頭をよぎる。
私が悪いのに。
私が殺してしまったのに。
時々思い出して、悲しくなるのはなぜだろう。
数年前のこと。
私は、実の父親から虐待を受けていた。
大酒を飲む父は酔うとすぐに怒り、家族に手をあげる。
父は日中は船着場で外国との貿易人をしていた。そのおかげで私たちはいい家に住み、食べ物にも困ることなく過ごせた。
仕事場の人は、父はよく働き、人当たりもよく、優しい人柄だったという。
父が変貌するのは仕事から帰り、家族でご飯を食べ、妹弟が眠りについた頃。
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