王宮での暮らし

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 剣技大会に向けて、鍛錬と肉体改造を開始した。食事を拒むようになり、砂漠時代の食生活と暮らしに戻した。獅子舎には相変わらず通っていたが、それ以外はひたすら剣を振るい、身体を鍛えた。  妊娠している可能性があるため、極限まで追い込むやり方はやめてほしい、というのが周囲の意見だ。食事に関してはスタブが妥協案を出し、最低限の栄養ある食事をとってもらうように説得した。その方が筋肉もつきやすく、体力もつきやすいと。休息も必要だと懸命に説いた。  ドウィンやディヤ、他の護衛兵たちにも相手をしてもらったり、ヨルトタミトの稽古に付き合ったりもした。  強い者との剣は、勇敢な戦士たちとの日々を思い出させた。  幼い身体で懸命に剣を振るう姿。助言し、相手をする自分。重なるのはやはり弟だった。  自分に気を使うのは、一族を離れてから初めてだった。今までは侍従や医師たちにチェックされるだけの受け身だったが、自分でもチェックする。  鍛錬の結果はみるみる現れ、まだ理想には程遠いものの、あの情けない姿からは脱しつつあった。  鏡越しで確認できるのは、なにも良い点だけではない。  毎日整えられる短い髪に、毎日剃られる髭のないつるつるとした顔。露わになった首。そして、ガナガタトゥー。  婚儀の際に施し、一か月は消えない。それがどんどん薄くなり、とうとう消えようとしていた。
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