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「……甘い匂いがする」
それは発情したΩの特徴。
王族に仕える侍従や近衛のほとんどは名家の出のαで、大臣や関係者もそう。王宮には多くのαが出入りしている。そこでΩが発情するなど、危険以外の何物でもない。本当なら、ルピスの言う通り隔離するか抑制剤を処方すべきなのだ。
しかし、ルピスはそのまま。何の処方もされず、そのままの状態で部屋に閉じこもっている。
番ったΩの匂いは番にしか効かない。他のαやβにも「甘い匂い」を感じることはできるが、それでヒートを起こしたり理性を失ったりすることはない。甘いお菓子や香水の匂いと一緒。
東の宮にいた王族と彼らの侍従や護衛兵にもその匂いは届いた。αにも関わらず「来たか」と冷静に状況を分析することができ、「いいにお~い」と呑気に楽しむこともできた。
それをモロにくらったのは、ただ一人。この強烈な匂い、この抗いようのないフェロモンは彼のためだけに放たれている。
「……ぐっ」
アデュラハミラは顔を真っ赤にし、膝から崩れ落ちた。
「王!」
サンバルガーとグルグが心配そうに駆け寄った。跪くことのない太陽の王が床に四つん這いになり、はあはあと息が荒い。
「くっそ……!」
窓の先に、その発信源がいる。昼でも夜でもカーテンを閉め、今まで見ないようにしていた。
意識するともっとひどくなった。グルグルと視界が揺れる。ジャンナもそわそわと部屋の中を動き回っていた。
血か、何かに定められた運命。それは自分で決めることができない。その抗いようのない絆と衝動に、己を手放してなるものかと戦う。
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