発情

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 慣れているというルピスは、寝台の上で胡坐を掻き、腕を組んだ状態で固まった。そのまま目を閉じ、苦悩の皺を眉間に深く刻み、一定の呼吸で肩をゆっくり上下させながらじっと耐えている。  室内には濃厚な甘い匂いが立ち込めている。発情しているのは間違いない。  これがルピスの対処、発情期の過ごし方だった。  今まで見たことのないΩの発情期に、彼の従者たちは驚いた。大抵は息がはあはあと上がり、発熱したように顔が赤くなって立てなくもなる。こんな石像みたいな発情は見たことがない。抑制剤もなく、これはすごい。並大抵の精神力ではない。 「っ!」  ギリ、と苦痛に耐えるように顔が険しく歪んだ。息をするのも辛そうに見える。 (これは……)  スタブは中庭の向こうに見える王の部屋を見た。  王の部屋には一日中、分厚いカーテンがまるで拒絶のバリアのようにかかっていた。これはルピスが来てからの王の変化の一つだった。以前はカーテンも窓も開け、窓際に座って中庭を眺めながら茶や菓子を味わったり、風を浴びながら読書をしたりしていた。  苦痛が増したように見えることから、おそらく発情にあてられて王がヒートを起こしたと考えられる。ヒートが起こると、発情と同様にαからも甘い匂いがする。  目配せすると、侍従たちが王を迎える準備を始めた。  王がやってきたら、隣にある控の間に移動する。ルピスの就寝中など、侍従や護衛兵はここに詰めて何があっても対応できるようにしている。
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