発情

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 ルピスは全神経を忍耐に集中させていた。 「奥方さま」  暗闇の中、遠くでぼんやりと光る小さな灯りのように、声が聞こえた。しかし、返事などできるわけもない。 「我らはこの場を離れます。後ほど、また参りますので」  甘ったるい匂いで頭が狂いそうだ。  この感覚には覚えがある。――そう、あの時だ。 「っ!」  心臓が爆発するかのように、バクンと跳ねた。思わず閉じていた双眸をバチッと開けた。  寝台の上にただ一人。天幕で囲まれ、薄暗い。  夜に目覚めた時、こんな状況がある。一人なのだが、すぐ近くから数名の気配がしていた。喉が渇いたり、用を足したくなったり、少し動いただけで「いかがいたしました?」と天幕から顔が覗いたり、控えている隣の部屋から現れる。しかし、今はそんな気配を察する余裕もない。 (………今、夜か……?)  バクン、バクンと心臓が痛い。ものすごい速度で血が巡っているのがわかる。その熱で体内から燃えそうだ。頭も視界もぼんやりとしている。 (……くそっ。これ、も……あいつ、か……)  狂気が忍び寄って来る。あの金色の髪をした男が、脳裏に浮かんだ。 「!」  発情期には身体が疼く。それは避けられない症状の一つ。  しかし、今回は違った。 (………あ?)  ジワ、と濡れたのがわかった。下の方から何かが漏れた。  しかし、おかしい。そこは本来濡れたり漏れたりする場所ではない。
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