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駱駝が鳴き、家畜たちが騒ぎ出す。
「なんだ、どうした?」
異変を察知したのだろう。他の天幕からゾロゾロと人が出てきて、外が騒がしくなった。
天幕の中にいた男たちは警戒態勢を取り、腰に差した短剣に手を伸ばした。これは男と認められた者全員が腰に差しており、刀身が湾曲している特徴的な剣だ。
数人は剣を抜いて外に出ていき、ルピスもマサメラを守るように彼女の前に回り、同じく剣に手をやった。
「まさか、奇襲か?」
今は夜。砂漠を照らす光は夜空の月と星、それから一族の火しかない。
今日は婚儀のめでたい日。煌々と燃えている。
「俺たちを襲うか。返り討ちにしてやる」
一族の男は駱駝に乗り、剣を振るう勇猛果敢な戦士たち。戦士でないやつは男でない。
家畜を育てながら砂漠を移動し、時に略奪をして暮らす遊牧民。そんな暮らしをしているのは自分たちだけではなく、砂漠に暮らす者たちは大体同じ。
砂漠は豊かな土地ではない。昼は灼熱、夜は極寒。水も作物も乏しい。
それでもここで生きていかなければいけない。
なら、奪えばいい。ほしいなら奪えばいい。それが砂漠の民の考え方、生き方だ。
自分たちが攻める一方ではない。こうやって攻められ、守らなければならない時もある。
「……多いぞ」
地響きにも似た音が聞こえる。こんな音は聞いたことがない。
中も外もざわざわと騒ぎ始める。
すると、外に出て行ったマサメラの兄カードンが顔を覗かせた。
「敵はかなりの数だ。駱駝を出す。――ルピスはここに残ってくれ」
「わかった」
婚儀を迎え、これから初夜を迎えようとする男。清めた手を血で汚すわけにはいかない。そんな仲間からの配慮と、ここに残す女や子供たちを守ってくれ、ということだ。
敵は多い。それなりの戦士たちを連れて行くのだろう。
「じゃあ、任せたぞ」
「ああ」
義理の兄は勇ましく颯爽と姿を消し、戦士としての誇りも矜持も若者に負けない親世代も剣を抜いて出て行った。
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