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「ルピス」
父親が足を止め、振り返った。
日々邁進したのは愛する女にふさわしくなるためだけではない。この尊敬する父の誇り高き息子でいたかった。
腹を痛めて生んでくれた母の誇り高き息子でいたかった。家族、親族、一族の誇りでいたかった。
口周りと顔の輪郭に豊かな髭を蓄える、立派なララバカインの戦士。黄昏の服と装飾をした息子に、ただ頷いた。
それで十分。息子には伝わった。
ルピスは頷き返すと、父は満足そうにふっと笑って天幕から消えていった。
駱駝が鳴き、ドドドドと足音を響かせて発った。
「大丈夫だ」
心配そうな妻の視線を感じ、そう告げた。
「俺たちは砂漠一の戦士。負けるはずがない」
お袋、と立ち上がった。
母の前に腰を下ろした。まだ3歳という幼い弟を守るようにギュッと抱きしめている。
「あにー」
父を含めた男たちが殺気立ち、慌ただしく出て行ったからだろう。祝いのめでたい席が台無しとなり、その幼い顔には不安の色が浮かんでいた。
その頭を力強く撫で、ぐしゃぐしゃと髪を乱した。その手には婚姻のガナガタトゥーがぎっしりと刻まれている。
そして、父が息子にしたように。ふっと笑みを浮かべて天幕を出た。
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