嫁取り

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 風の音に何かが混ざっているのを聞いた。 「ロンダ」  一昨日18歳を迎え、成人したばかりの戦士に声をかけた。 「女子供をまとめてすぐに移動しろ」 「え?」 「未成年の戦士も連れて行け。お前が指揮しろ。あいつらと合流し、守れ」 「え?」 「――来るぞ」  夜に光る鋭い眼光が、じっと暗闇を見つめていた。  ロンダはその姿を見つめ、動けなかった。  時折、この砂漠にも雨が降る。少量であれば恵みにもなるが、雨に慣れないこの砂の大地は大量のそれを受け止めるとこができず、甚大な被害を引き起こすこともあった。  ゴロゴロと恐ろしい音が鳴り響き、空から怒る神の鉄槌のような光が振り落とされる日は、戦士たちが戦のように指揮を取り、男は女を守り、母は子を守り、恐怖と死との戦いが起きた。  ロンダは今、まさにそれと直面していた。  あのこの世の果てまで轟き、地を割るような音はしない。静かだ。静かだが、彼からは怒りの光が放たれていた。それを肌で感じる。 「急げ!」 「は、はい!」  号令に若い戦士は飛び跳ね、急いで指示に従った。  ルピスは動かない。ずっと、じっと見ている。 (まさか、負けたのか?嘘だろ?)  信じられなかった。しかし、これは仲間のものではない。  猛スピードで、確実に迫ってきている。  ギュッと剣を握りしめた。手汗で湿っているのがわかる。こんなのは初陣以来だ。 「どういうことだ?」 「まさか、負けたってことか?」 「んなわけあるか!俺たちは砂漠の最強戦士、泣く子も黙るララバカイン族だぞ!」  誰もが想定外の事態に混乱し、戸惑う。声を荒げる者もいる。  背後では慌ただしく移動の準備が進んでいる。
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