運命の番

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 しかし、その根源である二人はまだ張りつめている。 「嘘ついたら、その時は殺すぞ」  それは嘘偽りなく、喉元に牙を突き立てようとする猛獣の眼だった。 「私を殺す?その時こそ、王殺しで一族郎党みな死刑だぞ」 「馬鹿を言え。さっき言っただろ。俺は死んだ、と。俺はもう『ララバカイン族のルピス』じゃない。俺が誰を殺そうが何をしようが、俺個人の責任。ララバカインは関係ない。死刑にしたいなら好きにしろ、俺一人をな」  アデュラハミラは、僅かながらに瞠目した。 「王とやらは、無関係な民を殺すのか?」 「!」  アデュラハミラは「殺生もするつもりはなかった」と言った。「己の民を捕虜にする王がどこにいる」とも言った。「ララバカインも我が民。刃を交えたくはない」とはっきり言った。 (こいつ……!)  最初から織り込み済みで、あの条件を提示したのか。 「――わかった。砂漠の男に二言はない。嘘もつかない。条件を呑もう」  王は堂々と宣言した。 「私が条件を呑んだということは、契約成立。これからお前の所有権は俺にある。私がお前を好きにしていい――そういうことだな」 「ああ、勝手にしろ」  ルピスにすれば、己の屍を相手に渡すだけ。痛くも痒くもない。  アデュラハミラはじっと食い入るように彼を見て、すっくと椅子から立ち上がった。 「今晩、ここを発つ。それまでここでゆっくり過ごせ」  そう言って、アデュラハミラは部屋を後にした。
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