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それから、見たことのない顔をしている母を抱きしめた。仕方ない。この状況で、父の死は濃厚となっている。
父との別れ同様に、言葉なく思いを交わす。そして、まだまだ小さい弟の前にしゃがみ込み、目線を合わせた。
さっきとは違い、ガシッと髪の上から頭を掴んだ。
「お前はこの俺の弟。幼くとも父と母の子だ。――わかるな?」
幼い身体に抱えきれぬ動揺と困惑、不安。それをありありと映す黄金は、強い槍となって弟に向かっていた。
みるみる色が消え、兄と似た黄金となる。
「はい」
しっかりとした頼りがいのある声で、コクンと一つ頷いた。
ルピスは笑みを浮かべて頭をガシガシと撫でると、すっくと立ちあがった。
「行け!急げ!」
弟は打って変わり、母の手を引いて走り出した。
「マサメラ!」
強い言葉で背中を押した。そして、彼女がくれた以上に「生きてくれ」と願った。
最初は後ろ髪を引かれるようにちらちらと振り返っていたマサメラだが、最後は振り返らず走って行った。
そして、ルピスも敵と向かい合った。
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