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私の視線に気づいた星野さんが、眼鏡をはずして私を見た。
「なにかありました?」
尋ねられて、何しに来たのか思い出した。
「あ…ちょっと聞きたいことが……」
向かいのソファに座って、聞きたいことを頭の中で文章にまとめてみるけど、なかなか言葉にはならなかった。
星野さんはそんな私を見て、くすっと笑った。
「なんですか?」
「あ…えっと…」
いつもの癖で、口元に手を持っていく。
「言いづらい事ですか?」
星野さんには私の癖は見抜かれている。
「言いづらいっていうか…聞いていいのか分からなくて……」
星野さんはもじもじする私を見て、持っていた資料と報告書をテーブルの上にまとめて置くと、私の方に身体を向けた。
「さあ、どうぞ」
ドンと来い、の姿勢。
私は思わず笑ってしまう。星野さんのこういうところ…好きかもしれない。
「あの…彼女さんの事で…」
「ん?彼女?俺の?」
「はい……。知らない女の人と一緒に住んでるのとか…嫌がってませんか?」
「あぁぁぁぁ……」
長い発声練習のあと、星野さんは右の口角を上げて笑った。
「連絡してないから知らないと思う」
「え?連絡してないって…一緒に住み始めてから1ヶ月は経ってますけど?」
「いや…向こうからは来てるんだけど…俺が返してない」
私は思わず姿勢を正した。
「どうしてですか?私のせいですか?」
「違いますよ。実は2ヶ月前に俺から別れ話したんです。4回目の、ね。向こうはまたよりを戻すもんだと思って連絡くれてるみたいだけど…俺はもういいかなって……。今回ようやく断ち切れる気がして」
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